明けましておめでとうございます。保険代理店サークルの菊地です。
昨年はFPコラムをご愛読いただきましてありがとうございました。本年もみなさまのお役に立てるコラムを執筆していく所存です。よろしくお願いいたします。
さて、新年から年度末にかけてはイベントが盛りだくさんの時期です。お子さん・お孫さんへお年玉や卒業祝い、入学祝いをあげる方も多いのではないでしょうか。
必要以上のお金や資産価値のあるものを人にあげると、贈与税がかかることがあります。今回のコラムでは贈与税がかかるもの、非課税制度を利用できるものについて詳しく解説しました。

お年玉やお祝いのお金に贈与税はかからない
お子さんやお孫さん、甥っ子姪っ子などにお年玉やお祝いで現金をあげる場合、原則として贈与税はかかりません。国税庁では贈与税がかからないケースに「個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物または見舞いなどのための金品で、社会通念上相当と認められるもの*」を定義しているからです。
ここでポイントになるのが社会通念上相当の定義です。ぽち袋やのし袋に入るくらいの数千円~数万円のお金なら社会通念上相当と言えます。ゲーム機器や自転車などのプレゼントも社会通念上相当と言えるでしょう。しかし、例えばジュラルミンケースいっぱいの札束、高級車、投資用マンションなどは明らかに社会通念上相当とは言えません。極端な例ですが、こういったものが贈与税の課税対象に なります。
具体的な金額としては、年間110万円までは贈与税の非課税枠で、それ以上のお金や物をもらったら110万円を超えた額から贈与税がかかかります。この110万円とは、あげる人一人当たりではなくもらう人一人あたりの非課税枠の金額で、暦年贈与の基礎控除と言います。
*出典:国税庁タックスアンサーNo.4405 贈与税がかからない場合

両親や祖父母からもらうお金に使える非課税制度
進学や結婚のタイミングやマイホームを購入するとき、両親や祖父母から資金援助してもらうことがあるでしょう。お年玉などよりずっと大きい金額ですので、贈与税がかかるか気になるところです。
親や祖父母などの直系尊属から、特定の目的のためにまとまった金額の資金援助を受けたときに使える非課税制度が3つありますので、詳しく解説します。
学費や習い事に使える教育資金
1つ目は、学費や習い事に使うためのまとまったお金をいっぺんにもらうケースについて解説します。この制度の名称は「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度」で、概要は以下の通りです。
- 両親や祖父母などの直系尊属から一括贈与された教育資金を非課税で受け取れる
- 制度が使えるのは令和8年3月31日まで
- 非課税の上限額は、もらう人一人につき最大1,500万円まで。そのうち学校以外の費用は500万円まで
- もらう人の対象は、あげる人の子・孫・ひ孫などの直系卑属で年齢は30歳未満。ただし、もらう人の前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合は利用できない
- お金は信託銀行などに贈与専用の口座を開設して預金する。手渡しや現金以外の資産に変えることはできない
- 口座からお金を引き出すときは領収証の提出が必要。学費などの教育資金の領収証なら贈与税は非課税だが、教育資金以外の目的に使った場合はその額に対して贈与税が課税される
- もらった人が30歳になった時点で使い切れずに残っているお金があったら、その時点で贈与税がかかる(もらった人が30歳時点で大学院などに在学中の場合は最大40歳まで延長できる)
- お金を使い切る前にあげた人が亡くなった場合、残ったお金は相続財産に加算され、相続税の課税対象になる。ただし、もらった人が23歳未満の場合・まだ学生である場合は相続財産に加算されない特例がある
教育資金としての具体的な使い道は以下の通りです。
| 区分 | 具体例 |
| 学校等に支払う費用 | 入学金、授業料、学用品の購入費、施設設備費、修学旅行費、給食費、受験料など |
| 学校以外に支払う費用 | 学習塾の費用、スポーツ(スイミングなど)・文化芸術(ピアノなど)の教室の月謝、通学定期代、留学の渡航費用など |
<教育資金の一括贈与のポイント>
実は、そもそも入学金や授業料などは必要なタイミングでその都度支払えば、金額にかかわらず相続税は課税されません。教育資金の一括贈与の非課税制度を利用するメリットは、まとまった金額を計画的に確保できることと、学費以外の習い事代なども500万円まで非課税で贈与できる点です。
挙式や出産費用に使える結婚・子育て資金
2つ目は、結婚式や出産・育児に使うためのまとまったお金をいっぺんにもらうケースについて解説します。この制度の名称は「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度」で、概要は以下の通りです。
- 両親や祖父母などの直系尊属から一括贈与された結婚・子育て資金を非課税で受け取れる
- 制度が使えるのは令和9年3月31日まで
- 非課税の上限額は、もらう人一人につき最大1,000万円まで。そのうち結婚に関する費用は300万円まで
- もらう人の対象は、あげる人の子・孫・ひ孫などの直系卑属で、年齢は18歳以上50歳未満。ただし、もらう人の前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合は利用できない
- お金は信託銀行などに贈与専用の口座を開設して預金する。手渡しや現金以外の資産に変えることはできない
- 口座からお金を引き出すときは領収証の提出が必要
- もらった人が50歳になった時点で使い切れずに残っているお金があったら、その時点で贈与税がかかる
- お金を使い切る前にあげた人が亡くなった場合、残ったお金は相続財産に加算され、相続税の課税対象になる
- もらった人が離婚しても、残ったお金には課税されない
- 既に1,000万円もらった人が再婚しても非課税枠は復活しないので、もう一度贈与を受けることはできない。
結婚・子育て資金としての具体的な使い道は以下の通りです。
| 区分 | 具体例 |
| 結婚関係 | 挙式・披露宴の費用、衣装代、新居の敷金・礼金、家賃、引越し費用など ※入籍日の1年前以降に支払ったものが対象 |
| 妊娠・出産・育児 | 不妊治療の費用、妊婦健診・出産・産後ケアの費用、保育料、ベビーシッター代、子の医療費など |
<結婚・子育て資金の一括贈与のポイント>
結婚・子育て資金の一括贈与は、先に挙げた教育資金の一括贈与よりも贈与税または相続税がかかるリスクが高い点に注意が必要です。結婚・子育て資金の一括贈与をした後にあげた人が亡くなった場合、残ったお金は相続財産に加算されてしまいます。教育資金の一括贈与のように「もらった人が23歳未満の場合・まだ学生である場合は相続財産に加算されない」といった特例はありません。あげる人が贈与時点で高齢の場合、もらう人は資金を早めに使い切ったほうがよいでしょう。
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度を利用するメリットは、両親・祖父母が元気なうちに、あるいは認知機能が衰えないうちに、まとまったお金を計画的に非課税で贈与できることです。あげる人だけでなくもらう人も使い方を計画しておきましょう。
マイホーム購入に使える住宅取得資金
最後に、マイホームを購入するときに使うためのまとまったお金をいっぺんにもらうケースについて解説します。この制度の名称は「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税制度」で、概要は以下の通りです。
- 両親や祖父母などの直系尊属から一括贈与された住宅取得資金を非課税で受け取れる
- 制度が使えるのは令和8年12月31日まで
- 非課税の上限額は住宅の性能によって異なる。省エネ・耐震など質の高い住宅は1,000万円、それ以外の一般住宅は500万円
- もらう人の対象は、あげる人の子・孫・ひ孫などの直系卑属で年齢は18歳以上。ただし、もらう人が贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円を超える場合は利用できない
※床面積が40㎡以上50㎡未満の住宅の場合は、合計所得金額1,000万円を超える場合は利用できない - 対象となる住宅は床面積が50㎡以上240㎡以下または40㎡以上50㎡未満であること(所得要件によって変わる)
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家に実際に入居すること。賃貸に出して収入を得るなどしてはいけない
- 贈与専用の口座開設は必要ない。もらった人が税務署に確定申告するときに、振込明細書や通帳のコピーを提出すればよい。ただし、もらった資金が控除枠内に収まって税金が0円であっても、税務署への申告は必須。申告し忘れると課税されてしまうので注意
- もらったお金を住宅ローンの返済に使うことはできない。住宅取得資金の制度なので、既に購入したマイホームのローンは非課税の対象外
<住宅取得資金の一括贈与のポイント>
住宅取得資金の一括贈与の最大のメリットは、お金を使い切る前にあげた人が亡くなった場合、残ったお金が相続財産に加算されない点です。財産をあげた人が亡くなったとき、7年前まで遡ってあげた財産に課税されることを「持ち戻し」と言います。先に挙げた教育資金と結婚・子育て資金は、使いきれなかったお金が持ち戻しされますが、住宅取得資金はお金にも土地建物にも持ち戻しされないので、贈与税と相続税の両方に対策できます。

3つの非課税制度のメリデメ比較
最後に、3つの非課税制度の特徴を分かりやすい一覧表にまとめました。
| 制度名 | 教育資金の一括贈与 | 結婚・子育て資金の一括贈与 | 住宅取得等資金の贈与 |
| 非課税限度額 | 最大1,500万円 (うち学費以外は500万円まで) | 最大1,000万円 (うち結婚資金は300万円まで) | 質の高い住宅:最大1,000万円 一般住宅:最大500万円 |
| 受贈者の年齢 | 30歳未満 | 18歳以上 50歳未満 | 18歳以上 |
| 受贈者の所得制限 | 1,000万円以下 | 1,000万円以下 | 2,000万円以下または1,000万円以下 (床面積による) |
| 適用期限 | 令和8年3月31日まで | 令和9年3月31日まで | 令和8年12月31日まで |
| 資金の管理方法 | 専用口座を開設 領収書提出が必要 | 専用口座を開設 領収書提出が必要 | 専用口座は不要 税務署へ申告が必要 |
| 贈与者が死亡したら | 残額に相続税課税 (加算されない特例あり) | 残額に相続税課税 (特例なし) | 相続税は課税されない |
| 使い残りがあったら | 30歳(最長40歳)時点で贈与税課税 | 50歳時点で贈与税課税 | 全額使い切ることが前提の制度 |
ファイナンシャルプランナーおすすめの非課税制度活用方法
メインの目的が贈与税・相続税対策なら持ち戻しがされない住宅取得資金がおすすめです。質の高い住宅なら非課税枠の金額も大きいので節税効果も高いです。
子や孫が私立や一貫校に進学する・理系に進む・留学するなど、高額な学費がかかる時期と金額が確実に分かっているなら、計画的に使いやすい教育資金がおすすめです。ただし適用期限が令和7年度末までとタイトなため、欲張らずに計画的に使いきれる金額だけ贈与すると良いでしょう。
子や孫の結婚と両親・祖父母の終活のタイミングが一緒なら結婚・子育て資金がおすすめです。結婚だけでなく出産・育児・不妊治療など幅広くカバーできて、受贈者が50歳になるまでと時間の猶予もあるので、一番使い勝手が良い資金です。

おわりに
まとまったお金を贈与するときに使える3つの非課税制度について、令和7年12月時点の最新情報を解説しました。3つの非課税制度の適用期限は、実はこれまでの税制改正によって何度か延長されています。
- 教育資金:令和5年3月31日→令和8年3月31日
- 結婚・子育て資金:令和5年3月31日→令和7年3月31日→令和9年3月31日
- 住宅取得資金:令和5年12月31日→令和8年12月31日
令和7年12月19日に令和8年分の税制改正大綱が発表されました。その内容によれば、教育資金については延長せず廃止する方向のようです。結婚・子育て資金と住宅取得資金については記載がありませんでした。
教育資金の非課税制度が廃止になる理由は利用率の低さと富裕層優遇の不満です。国が決めた制度は国民がうまく使わないと廃止されてしまいます。サークルでは、ご結婚やマイホーム購入などに伴うライフプランニングのご相談を承っております。国のさまざまな制度についてもご説明できますので、ホームページのお問い合わせまたはお電話でお気軽にご相談ください。
